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世の中には2つのタイプの「天才」がいる!?

取材で人の話を聞いたり、ドキュメンタリー番組を見たりしていると、最近、思うことがあります。それは、いわゆるその道の「天才」と呼ばれる人には、2つのタイプがいるのではないかということです。

 

暗黙知型「天才」◆

1:感覚が優れた暗黙知

「ここで、シュッと、そして、ここで、パッとやるんですよ」。元巨人軍の長嶋茂雄さんの指導などを思い浮かべると、わかりやすいですが、言語として精緻な表現を使わない人がいます。メキシコ五輪の時の日本代表で、史上最高のストライカーと呼ばれる釜本邦茂さんが、選手を指導される様子を取材した時も同じような感覚を覚えました。

 

この前も、世界的に有名な指揮者・小澤征爾さんが、テレビでインタビューを受けていて、一言一句は覚えていませんが、小澤さんが「楽譜からベートーベンの思いを汲み取る」というようなことをおっしゃったとき、キャスターが「私からすると、楽譜は『ド』は『ド』という音符の並びでしかないですが、どのように汲み取るのですか」などという質問を投げかけました。すると、少し黙った後、「そんなこと聞かれたことねぇなぁ」などと言って、別の話を切り出されていました。その瞬間、「この人、天才だ」と思わせられました。

 

言葉にできないけれども(もしかすると、あえてしていない部分もあるかもしれませんが)、卓越な技能を持ち合わせている。こういう人たちの感覚って、どうなっているんだろうとすごく興味を持ちます。

 

暗黙知」(Tacit Knowing)という概念があります。主観的で言語化できない知識のことで、この概念を提唱した哲学者のマイケル・ポラニーによると、「我々は語ることができるより多くのことを知ることができる」(マイケル・ポラニー著、伊藤敬三訳『暗黙値の次元』2002年紀伊國屋書店P15)そうです。人の顔を何千と見分けられるが、どのようにして認知して、区別するかということを普通は語ることができないという事実を一例として挙げ、暗黙知について説明しています。

 

技能に関しても、「我々は、筋肉の個々の要素的な諸活動から、それらの諸活動が共通に奉仕している目標の実現へと、注目するのである。したがって、ふつう我々は、これらの要素的な諸活動を明確に語ることはできない」(同P24)としています。

 

つまり、優れた感覚や技能について、細部にわたっては、すべて言語として語れるものではないということです。したがって、このタイプの「天才」の卓越した技能は、暗黙知によるところが大きいのではと思います。

 

◆論理型「天才」◆

2:「全てのものに理由がある」とする論理型

一方で、「全てのものには理由がある」と、その道を理論化して極めているタイプの人がいます。

 

例えば、日本一の天ぷら職人と言われている早乙女哲哉さんは、一つの天ぷらを揚げるのに、秒刻みで調理の工程を管理しているそうです。極めて論理的に味の追究をしている人のようです。また、落語家の桂枝雀さんも、「笑い」を類型化し、論理的に検証しようとした人として有名です。

 

人が能力を高めていく過程で、経験を積み重ね、ふとした瞬間「あぁ、これってこういうことだな」みたいなコツをつかむ瞬間が、多くの人にはあると思います。論理型の天才はこの作業を、かなり意識的に行っているのかなぁなんて思います。

 

組織行動学者のデーヴィット・コルブは、「経験学習サイクル」(1984)を提唱しました。人は、「行動」—「経験」—「省察」—「概念化」というサイクルを回すことで、どんどん学びが深まっていくというものです。経験を経験としてとどめるのではなく、これはどういうことだろうと、うまくいったことと、うまくいかなかったことを振り返り、「こういうことだろう」と概念化することが重要だそうです。

 

このタイプの天才は、経験学習サイクルをがんがん回していて、概念化するのがうまい人なのかなと思います。何十年と経験を積み重ね、たくさん概念化できているから、絶妙な味や極めきった技を、論理的に説明できるのではと思います。

 

◆疑問点◆

ただ、じゃあ、言語化できていない人は、経験学習サイクルを回していないのかという疑問も残りますし、反対に、概念化できている人は本当に言語で説明できているのかという疑問もあります。そもそも、この2つのタイプの天才って、熟達のプロセスは異なるのかという問題もあります。もしかすると、全く違う考え方をあてはめないといけないのかもしれません。

 

一体、この2つのタイプの天才は、何が違って、話せたり、話せなかったりするのでしょうか。単に口下手か否かという問題ではない気がします。頭の中をのぞいてみたい>_<

 

取材やテレビで、その道を極めた人たちの話を聞く中で、何となくそんなことを考えていました。勉強不足なだけで、すでにそういった知見は生まれているかもしれません。さらに知識習得に励みたいと思います。

 

お元気で。