TSUJI-LAB.net

人材育成の観点から「経営」「教育」「メディア」について考えます。

組織の専門集団から離れて気付くこと

f:id:kaz-journal:20150504212930j:plain

◆取材は1対1がやりやすい◆

本職は編集の仕事なのですが、今でも時々、ライターとして取材をしています。新聞社時代と違って面白いなと感じることは、取材をしたことがない人に同席してもらっていることです。

 

特別な場合を除いて、取材が一番しやすい環境は1対1です。自分の知りたいことをスムーズに聞き出すことができますし、相手も周囲を気にすることなく、気兼ねなく話してくれるからです。複数の取材者がいると、それぞれが思い思いに話を聞くことになるため、論点がぶれてしまう恐れがあります。

 

記者会見では、そういうこともあってか、多くの記者は会見が終わってから、取材対象者をつかまえて、補足取材をするのが通例になっています。

 

 

◆取材に同席してもらう3つの理由◆

私は取材したことのない人に同席してもらって、あえて複数人で聞くようにしています。

 

そこには3つの理由があります。

 

ラポール(相互の信頼関係)を築く時間を短縮化する

よりよい質の記事を書くために、最大限のエネルギーを使いたいので、同席してもらうことに、職業体験的な側面を持たせる意図はありません。ですから、同席してもらう人は、取材対象者とある程度関係のある人です。顔見知りの人を連れて行くことで、相手の警戒心をとくための時間を短縮化することができます。その分、本題の部分に割く時間が増えます。

 

②気付かない視点から聞いてもらうことで、通り一遍の原稿にならないようにする

取材慣れしてくると、聞き方がパターン化してきて、一定の原稿は書けたとしても、思わぬところで大事なポイントを落としてしまう恐れがあります。複数の取材者になると論点がぶれやすい反面、「なるほど、そういう点も聞いておくべきだな」という気付きがあります。

 

③同席者の対話によって、スキルを言語化できる

自分にとっては、これが一番大きな要素です。取材未経験者が持つ関心ごとは、「人から話を聞く」という仕事とは何ぞやということです。人から話を聞くなんて、日常活動の中で行われるいたって普通の行為。「プロって何だ」と思っているわけです。

 

 

◆同席者との対話で学ぶこと◆

ここでは③に焦点を当てます。

 

例えば、同席者と取材の前後でこういう会話が繰り広げられます。

 

「取材では、どういう点に気をつけて聞いているのですか」(同席者)

 

「基本的に場面を作り出すことです。ここだと思った部分に関しては、気温とか、においとか、天気とか極めて細かいレベルまで聞くようにしています」(自分)

 

「へぇ、どうやって場面を選んでいるんですか」(同席者)

 

「ますは、一番印象に残っているつらかったこと、面白かったことを聞きます。記憶に強く残っている場面は、その人の人生の波になる部分が多いからです。あとは、『今』を聞きますかね」(自分)

 

「へぇ、『今』って……」

 

という具合です。

  

基本「へぇ」と返ってくるのですが、実は、僕も自分で言いながら「へぇ、自分ってこんなこと考えているんだ」と思っています。説明のなかには、これまで指導してくださった上司や先輩の請け売りもあるのですが、普段改めて確認することないスキルを言語化する行為は自分にとってはかなり新鮮です。

 

さらに、言語化することによって、内省が促されます。 

 

「意識しているポイントを今、伝えたけど、もっと工夫できるポイントなかったかな。このやり方、合っているんかな」などといったことを考え出します。

 

実践に基づく持論は、「こうだ」とかっちり決まっていないために、常に試行錯誤を続けるものだと思っています。したがって、ぐらぐらとしていて、不安定な部分が多い反面、果てしなく伸びしろが広がっていく可能性を秘めているものとも考えられます。

 

 

◆専門集団から離れて「なぜ」を問い直す◆

記者という専門集団のなかにいると、「原稿には『声』が必要だ」とか、「あんこ(話の核となる部分)がない」とか、「本記とサイド書き分けで」とか、「この情報には少なくとも2本の筋が取れないと載せられないな」とか、当たり前のように会話が繰り広げられますが、改めてそれは「なぜ」と問い直す機会はほとんどありません。

 

しかし、いったん専門集団を離れると、この「なぜ」がいっぱい出てくるのです。実はここにスキル改善の余地が眠っているかもしれない。すっと答えられないものは、やはりロジカルではないはず。専門集団であればあるほど、この「なぜ」と問い直す場を定期的に持った方がいいのではないかなと思います。

 

私の研究室の同級生(斉藤さん)は、職業上のスキルを生かしてボランティア活動をする「プロボノ」が、どのような能力強化につながるのかという研究をされています(http://blog.livedoor.jp/mitsuhiro_saito_lab/)。

 

僕は記者という専門集団から離れて、取材をすることで新たな学びがありました。どんな職業でも、離れてみて気付くことがあるように思います。これから、新たな知見が生まれることが楽しみです。

 

お元気で。