ジャーナリズム×人材育成

「良い記事が書ける能力とは」。記者の人材開発について研究しています。

記者がインタビュー中、頭の中で考えていること

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 この前、大学院の同級生と雑談をしていて、インタビューの話になりました。彼は先日、インタビューをしたらしいのですが、取材経験がなくてあまりうまくいかず、どうやって話を聞けばよかったのか、少し悩んでいるようでした。参考になるかなと思い、雑談がてら自分がインタビューしている時に意識していることを話しました。

これまでインタビューをするときに意識していることを言語化することはなかったので、自分自身、すごく新鮮でした。もしかすると、記者の思考は千差万別なのかもしれませんが、ここでは個人的な経験に基づいて、記事を作成するためのインタビューのコツについて考えてみたいと思います。

 

◆単に聞いているだけではない◆

記者はインタビュー中、話し手の言葉を聞き、ノートにペンを走らせているのですが、それと同時に、原稿をどう組み立てるか、何をどういう順番で聞いた方がよいか、この人の話の肝はどこか、残りの時間はどれくらいかなど、常に頭をフル回転させています。そして、頭の中で、既に多かれ少なかれ原稿を書き始めています。

話し手に完全に主導権を委ねてしまうと、話の内容が偏ったり、脱線しすぎて収拾がつかなくなったりして、あとで原稿をまとめる時に「どうしたらいいんだぁああ!」と悩んでしまいがちです。ですから、ほどよいタイミングで話し手に質問を投げかけ、対話のなかで「交通整理」しながら聞くことが重要です。そうすると、場合によっては話し手自身も気づいていなかった潜在的な心意が現れることもあります。

では、「交通整理」とは、具体的にどうすることなのでしょうか。「人に焦点を当てた記事」を書くことを前提に、インタビューをうまく構成する5つのステップを示したいと思います。

 

◆インタビューの5ステップ◆

1:テーマを明確にする

話を聞く前に、テーマを明確にします。相手が隠したい事実などを聞き出すような特殊な事情を除いて、できれば事前に話し手にテーマを提示しておいた方がよいと思います。インタビューの目的、主な質問内容、想定しているアウトプットなどを伝えておくことで、話す内容をある程度準備してもらうことができます。インタビューの冒頭にも改めて趣旨を伝えると、こちらの意図をいっそう理解してもらえます。

インタビュー中は、常にそのテーマを念頭に置いておきます。話が長くなればなるほど脱線しがちで、必要以上に話がそれたら自然な流れで本筋に戻す作業が必要になるからです。ただし、脱線の中に思わぬよい話が出てくることもあるので、「話がそれたな」と感じても、無理矢理、本筋に戻そうとせず、貪欲に聞くことも重要です。ある程度柔軟な姿勢で臨むべきかと思います。

 

2:ざっと聞く

インタビューを始めたら、まずはざっと全体の流れをおおまかに把握するように努めます。時系列で始めから終わりまで聞くことが多いですが、元々特定の期間や内容に絞っているということであれば、その部分についての概要を聞きます。細かい話は後回しです。

記者はこの段階で「2段落目」を作っています。実際の新聞記事を想像してもらえればわかりやすいですが、記事の2段落目は、大体、その人がどういう人で、どういう経歴を持っていて、今どんなことをしているのかという概要が紹介されます。2段落目を頭で構築しながら、全体を把握し、この人を掘り下げるとしたら、どのポイントにニュース価値があり、面白みがあるのかを吟味しています。

 

3:面白いと思った点を深く掘り下げる

話し手の全体像を把握したら、次はどこをポイントにするのかを決め、その点についてだけ再度深く質問します。話し手に「なぜ、なぜ」と質問を繰り返し、さらに同じ質問を違う言い方で、何度か尋ねます。反復的に聞くことで、話し手が話しながら、頭が整理されてきたり、思い出したりする可能性があるので、粘り強く聞くことが重要です。

記者はこの段階で「3段落目」を作っています。3段落目は、その人を記事で表現するために落とせないポイントや重要な事実を書くことが多いです。読み応えのある記事になるかどうかは、3段落目の内容にかかっています。原稿の「あんこ」と呼ばれる部分です。「面白い」「感動した」と思えるような言葉をいかに引き出せるかが極めて重要で、記者の感性が問われます。

  

4:テーマと面白いと思った点を結び付ける

「いい話が出てきたな」、「これは重要なポイントだな」という話が聞き出せたら、もう一工夫必要になります。記事全体に違和感なく盛り込むために、あらかじめ設定しているテーマとリンクさせる作業が必要です。そのためには、言葉を補う必要があります。

例えば、あるビジネスマンが、学生時代、海外に一人旅をし、貧富の差を目の当たりにしたという話を聞いたとします。そして、そのビジネスマンが今一番大事にしていることは「顧客満足の実現」と言ったとします。そこで記者は、ビジネスマンに「学生時代に貧富の差を目の当たりにしたときに、相手の境遇や立場に立って物事を強く考えるようになったんですかね。その経験が今の仕事で生かされていることってありますか」と、質問します。「違う。ない」と言われればそれまでですが、記者は、ビジネスマンの「学生時代の経験」と「顧客満足の実現」を「相手の立場で物事を考える」という価値観でつなごうとしているわけです。

この例は稚拙なものですが、瞬時に機転を利かせて言葉を補っていけるかということも記者の力量の一つかと思います。ともすれば、話し手本人も、記者に質問されて初めて気づく心情が表出されます。これがうまくいったら、話し手の本質的な部分が見えてきて、記事の見出しが大体想像できるようになります。

 

5:象徴的なエピソードを聞き取る

記事はニュースでありながら、読み物でもあります。アメリカの研究で、ニュースを生産する仕事の最も重要な慣習の一つは「物語性」であると指摘されています(Jacobs,1996)。 日本においても、多くの記事はナラティブな構成が意識されています。ですから、エピソードを聞くということが欠かせません。

原稿を作るときに、話し手を象徴するような出来事を盛り込む、すなわち物語ることで、臨場感が生まれ、内容に動きが出てきます。そうすると、読み手を引きつけやすくなります。温度やにおいなど、できるだけ詳細に聞けた方が、面白い読み物になります。しかし、実践してみるとわかりますが、情景が目に浮かぶまで聞き取るという作業はなかなか難しいです(それについては、こちら臨場感を持ったエピソードを聞く3つのコツ!? - ジャーナリズム×人材育成)。根気よく聞きつづけるしかありません。

象徴的なエピソードは大体、人生の谷か山に多いので、「これまで一番苦労された思い出は何ですか」「一番やりがいを感じた瞬間は」などと聞いていくことから始めるとよいと思います。

 

◆相互関係で成立するインタビュー◆

インタビューを5つのステップに分けて考えてみましたが、常に順序よくやっているわけではありません。1、2は相手との関係性や事前に把握している情報量によっても変わりますし、3、4、5はインタビュー中に行ったり来たりして、何度も頭で原稿を書き直しています。

一歩引いて考えてみると、記者は話し手が言語として表出した記号を記録しているだけではなく、コンテクストを読み取りながら、ほどよい距離感で介入していることがわかります。厳密に客観性を担保すべきだとするならば、もしかするとこの方法は、記者が主観的に型に当てはめているものだと思われるかもしれません。とはいえ、事実を事実として書くことにとどめているという点においては、客観的であるとも言えます。ニュースは、客観か主観かという議論は絶えず繰り広げられています。

ニュース論の中には、ニュースは社会的構成物であると主張する学者もいます。ニュースは、客観的事実がそのまま記述されているものではなく、組織や記者や取材対象との関係で構成されているものとしています。受け手、国家、企業などが現実を構築・構成している中で、ジャーナリズムの担い手とされるマス・メディアも事件・出来事の報道・論評・解説を行うことで現実を構築・構成しています(山口,2011)。

インタビュー一つとっても、話し手の語りを記者自身が意味を付与し、相互関係のなかでニュースは成立しているという考え方もできます。こういうことを考え出すと、報道のあり方と「真実」とは何かという深い議論になってきます。うーん、話がマニアックになっていきそう・・・。

今回は、インタビューについて考えてみました。自らの思考や行動を整理してみると、私は新聞記事というアウトプットをベースとしたインタビューの方法を知らず知らずのうちに培っていたのだなと、改めて実感させられました。

 

それではお元気で。

 

 

※参考文献

Jacobs,R.N.(1996)Producing the news, producing the crisis: Narrativity, television and news work. Media, Culture, and Society 18(3), 373-397.

山口仁(2011)「社会的世界の中の「ジャーナリズム」--構築主義的アプローチからの一考察」帝京社会学 (24), 93-117.