◆ニュースは双方向で議論されているか
IT技術の進展により、誰もが情報の発信者になれると言われて久しくなりました。手軽に機材やソフトが手に入るようになり、技術さえあれば、プログラミングをしてサイトを開設し、記事や動画を編集し、インターネットに載せて発信することが、目新しいことではなくなりました。
このような環境の変化によって、情報の送り手、受け手という言葉自体も曖昧なものになりつつあります。
しかし、実際、双方向の情報交換って、ニュースにおいてはどうでしょうか。
◆日本のメディア利用事情
毎年、世界のメディア事情を調査しているオックスフォード大学ロイター・ジャーナリズム研究所が興味深い結果を報告しています。
同研究所は、アメリカ地域、ヨーロッパ地域、アジア地域などを中心に世界36カ国で調査しています。日本では約2000人を対象に分析されました。
日本のインターネット普及率は94%と、世界トップクラスの普及率を誇っており、最もニュースを見るメディアとしては、テレビとオンライン(インターネット)が拮抗しています。オンラインニュースが身近になってきているといえます。また、デバイス別で見ると、パソコンが減少基調にあり、スマホが増加傾向、タブレットはほぼ横ばいです。確かに、街中を歩いていてもスマホを覗き込む人が多く、これらの調査結果は納得できます。
『Digital News Report 2017』Reuters Institute for the Study of Journalism
スマホなどの最新機材を持ってニュースを見ていることがうかがえるのですが、実際、どれだけ駆使しているのでしょうか。ニュースとの関わり方の指標として、注目できるのが、ニュースに対してコメントしたり、シェアしたりする人の割合です。
『Digital News Report 2017』Reuters Institute for the Study of Journalism
世界で最下位。いくつかの国をピックアップした次の経年調査で見ても、シェアやコメントは増加していません。というより、シェアに限っては下がっています。
『Digital News Report 2017』Reuters Institute for the Study of Journalism
日本はニュースがあまり好きではない国なのでしょうか。しかし、次の結果を見ると、嫌なニュースをあえて避けることもしていません。
『Digital News Report 2017』Reuters Institute for the Study of Journalism
ここからうかがえるのは、日本はニュースに対して受身な国である可能性があるということです。情報に対して、意見を持ったり、それを言葉にしたりすることが苦手なのかもしれません。
近年では、テレビのニュース番組の中で、リアルタイムでツイッターのコメントが紹介されたり、番組に直接コメントを送ったりするようになりました。しかし、世界的に見れば、このようなコメントを活用している人は少なく、ニュースにおける双方向の言説空間は、盛り上がりに欠けているともいえそうです。
◆声をあげやすい環境
世論の声というのは、大きな力を持っています。私が調査報道を行ったときは、世論の声によって、制度が変わるということを目の当たりにしました。記者のときは声なき声をすくい上げることが使命の一つだと思っていました。
しかし、現代は、個人でも声をあげやすい環境があります。最もおそろしいのは、社会問題に対して無関心であること、意見を持たないことだと思っています。
日本は、将来の方向性を決める大きな選択が迫られている課題が山積しています。安全保障、自由貿易、社会保障、税金……。我々は次の世代に何を残すことができるのでしょうか。
ネット上の公共圏がもっと盛んになり、国民全体できちんと権力を監視ができれば、初めてニュースメディア2.0ともいえる環境が整うではと考えます。
それでは、お元気で。