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ワークショップを実践!新人記者が活躍するために必要な「学び」とは!?

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 先日、マスコミの内定者を対象に「記者の学びを語り合う 理論と実践のワークショップ」を開催させていただきました。

 

4月からマスメディアへ就職される皆さん、誠におめでとうございます。記者の皆さんの奮闘に、これからの日本の未来がかかっていると言っても過言ではありません。情報の氾濫する時代だからこそ、プロとして良質な情報を生み出していかなければなりません。

 

とはいえ、入社前は、どうやって組織に適応し、活躍していけばいいのか、いまいちわからず、大きな不安を抱えている人が多いよう思います。

 

今回のワークショップはそうした不安を解消し、予期的社会化を狙った初めての試みでした。告知もうまくできなかったように思いますが、それでも、全国紙、ブロック紙、地方紙、テレビの記者職・ディレクター職の内定者約15名が参加してくれました。

 

 

◆ワークショップの内容

プログラムは、「つかみ」ー「理論」ー「演習」ー「レクチャー」を1サイクルとし、主に3テーマで実践しました。ワークは、4ないし5人を1グループとした3つのグループで取り組んでもらいました。

 

テーマ1:個人の学び

・記者の職務意識の醸成と内発的動機づけ

「記者・ディレクターの役割」「どんな記者・ディレクターになりたいか」「どんな記事・番組を作りたいか」を紙に書き出してもらい、記者としての役割意識や信念について、グループで対話をしてもらいました。ここで書いた内容は、参加者自身が記者を志した軸となるもので、改めて語り合うことで、業務へのモチベーションを高めます。

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OJTでの学び方

記者の職場は、OJT(オン・ザ・ジョブトレーニング)が基本と言われますが、正統的周辺参加を行う状況でもなく、ほとんどが計画的ではありません。メンターが振り返りを促進することもあまりないように思います。

 

そこで、経験学習の理論を紹介し、個人による振り返りと概念化の重要性を強調しました。そして、実際に二人一組でインタビューを実践、その後、振り返り、概念化を体験してもらいました。さすが、記者になる参加者はコミュニケーション力が相当高く、ガンガンに質問していました。

 

ここで重要なポイントは、「取材をされる」という経験が得られることです。記者は取材することはあっても、取材されることはない。ここで取材をされる経験を得ることで、取材の受け手側の気持ちを理解して仕事に取り組めます。

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テーマ2:個人と組織の関係

・記者のプロフェッション的意識と組織的制約

記者はプロフェッション(=専門職)の意識が高いと言われています。つまり、組織倫理とジャーナリストとしての倫理の衝突が、時折、個人に内在化し、葛藤をし続ける状態が生まれます。マスメディアの記者は、ジャーナリストであると同時に組織人でもあるので、さまざまな制約を受けながら、社会に資する情報を発信しなければなりません。そこで、いくつかのケーススタディに取り組んでもらいました。

 

例えば、

 

ネタ元からスクープになりそうなネタを教えてもらった。 ネタ元には「まだ報道するのはしばらく待ってくれ」と言われた。デスクに報告すると「抜かれたらどうするんだ、すぐに出せ」と言われた。さぁどうする?

 

リアルですね。笑 参加者からは「あ、ありそうー>_<」というような声がしばしば上がっていました。当然そうです。なぜならお題は、私の経験や、第一線の記者が夜な夜な電話をして語ってくれる悩みを基に作成したからです。笑

参加者は近い将来遭遇する局面ということもあって、かなり活発な議論が交わされていました。

 

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テーマ3:先輩たちの知恵

・敏腕記者たちのインタビュー調査からの示唆

私は、研究を通じて新聞協会賞を受賞した記者や、調査報道の先駆者らに、インタビューをしてきました。そこで得られた知見を「思考」「行動」「その他」と3つのテーマに分けてレクチャーしました。また、私自身の記者経験や文献研究の話も補足し、明日からすぐに使える取材のコツを伝えました。参加者はかなり真剣な眼差しで、ペンを走らせていたのが印象的でした。

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・求められるスキルの整理

最後のまとめとして、参加者自身がこれから必要だと思うスキルをポストイットに書き込んでもらい、模造紙でグルーピングしてもらいました。今、自分の力で、何が足りてなくて、これから何が必要なのかをグループで整理し、頭の中で漠然と抱えている不安を解消してもらいました。

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◆満足度調査

ワークショップ終了後、満足度調査を行いました。「とても満足している」から「まったく満足していない」までの5段階で質問したところ、なんと回答をしてくださった参加者全員が「とても満足している」という結果でした。

 

自由記述回答からは、

  • そもそも、このような学びの場がなかったので、その点で非常に大事なイベントだった。
  • 支局に行ってもアタフタすることなく取材に望めそうで安心した。
  • これから直面しうる状況に対して自分が取りうる行動を知ったことと他にも選択肢があることを知れた。
  • 同期がどんな思いで記者を志すようになったのか、重要なテーマだけれどもなんとなく照れ臭くて話さないようなことを話すことができてよかった。

 

 

など、概ね良い感想をいただいていて、たった1日だったけれども、開催してよかったと思いました。

 

今回、ワークショップを開催してみて思ったのは、記者同士がそもそも論で対話をする場が圧倒的に足りていない、ということです。「もっと対話する時間がほしかった」。そんな声が多かったです。

 

なぜ記者を志したのか、何をする仕事なのか、何を目的としているのか。これは内発的動機づけにつながるもので、入社してからも必要なことだと思います。

 

 

◆咀嚼して伝える

講演会などを通じて、大きな業績を残した記者から話を聞く機会を得ることがあります。大変勉強になりますし、もっと業界の横のつながりが活発化して、学び合う職業集団になればと願っております。

 

その一方で、そういう個々の知恵を「ナマゴエ」として聞くだけではなく、咀嚼して伝えられる人材も必要のように思います。とりわけ新人には咀嚼して伝えないと伝わらないことも多いです。

 

「記者の妙技は一般化できない」と一蹴するのではなく、できるだけ言語化して学習できる教材に形を変えていく。私はそこにとことんこだわりたいと思っています。

 

ニッチで、小さな活動ですが、これからも記者の学びの場を、コツコツ地道に開催していけたらなと思います。

 

ご興味のある方がおられましたら、レジュメ(ダイジェスト版)などをご提供させてもらいます。ご連絡ください。

 

それでは、お元気で。