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人材育成の観点から「経営」「教育」「メディア」について考えます。

本を企画するときに考える5つのこと

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◆本の企画の実践知◆

新聞社を退職してから、私は本を編集する仕事をしてきました。ジャンルは学習要素を含んだビジネス書です。

記事と本は、同じ文章を扱うという意味では親和性が高いのですが、情報量が全く違うので、それに伴って視点が異なります。

さらには、学習要素を含む本では、読者に学びを促す設計がなされていなければなりません。インストラクショナルデザインという分野では、ADDIEプロセスやARCSモデルなど、教育の設計方法について解説されています。

このような教育工学に基づいたフレームワーク援用した設計方法については多数の書籍が出ているので、そちらを読んでもらえればと思うのですが、ここでは、私が編集者の仕事をしていて、本を企画する際に考えていることをまとめたいと思います。

 

 

◆本を企画する5つのフロー◆

1:時流をつかむ

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今世の中の動きはどちらに向かっているのか、どういうコンテンツが求められているのか、予測します。そのための情報収集は欠かせません。ニュースを見たり、本屋に足を運んで平積みの本を眺めたりします。「あぁ、世の中の多くの人は、コミュニケーションに悩んでいるんだなぁ」、「自身のメンタルケアに関心がある人が多いのかなぁ」といった大きな流れを読み解きます。そして、半歩先のアイデアを練っていきます。重要なのは、「半歩」です。あまり先を行き過ぎるテーマだと大勢の読者はついてこないからです。自分の感覚がずれていないか、職場の同僚や友達と雑談をしながら確認することもあります。

昨今では、ビッグデータの活用が重要になってきていると思います。マーケティングリサーチによって分析された結果を参考にして、数字から読者の心理を読み取ることもあります。

「今、働き方改革が大きなうねりとなっているけど、その後はどんなものが求められるのだろうか」といった具合に、現在のブームから派生して、引き起こせそうなブームを考えるのも重要です。

 

 2:テーマを設定する

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イデアはできるだけたくさん挙げますが、テーマは広すぎず、狭すぎずを心がけます。本は内容にもよりますが、大体、1冊10万字前後と考えて、その分量に耐えうる情報量を持ったテーマかどうかを考える必要があります。 

もっと端的にいえば、私はテーマが浮かんだら、5章立てで内容がパッと考えられるかを頭の中で実践してみます。思い浮かんだら、採用。浮かばなかったら、別のテーマと組み合わせたり、切り口を変えたり、もう少し広いテーマでできないか再考したりします。そこで面白そうなテーマにならないときは、ボツにします。

 

 3:著者を選定する

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テーマに見合った著者を探します。これまでやりとりした実績のある著者がテーマに合うならよいのですが、そうでない場合は、新規開拓をします。新しい著者を選ぶ場合、肩書きやこれまでの出版実績がかなり重要視されますが、まず私は、テーマに関する本を何十冊と「パラ読み」して、すっと頭に入ってくる本を選抜していきます。

そして、選抜されたいくつかの本から、著者の執筆実績や経歴、そして「はじめに」と「あとがき」をしっかり読みます。忙しい著者であれば、本文はライターが書いていることもあるのですが、「はじめに」や「あとがき」は本人が書いていることが多いですし、人柄や思想性が伝わってくるので、かなり入念に読みます。

 

 4:章立て

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本を作る際の章立ては、著者がすべて考える場合もあるようですが、私は、仮の章立てをたたき台として作成し、著者と調整することが多いです。章立てで意識するのは、体系的かつ構造的な章立てにすることです。理想は、1、2、3、4、5章のタイトルがモレなくダブりがない体系になっていて、それぞれの章の節タイトルもモレなくダブりがない構造になっているようにすることです。

こうすると、読者の頭に本の内容がとどまりやすくなり、また読み返す際もどこにどんな内容が書いてあったのか探しやすくなるからです。一方で、それに固執しすぎて、質が下がってしまうのは本末転倒なので、なるべく「遊び」の部分、挑戦的な部分を入れるようにしています。例えば、本の最初のページに写真を挿入したり、類似する本と比べてもあまり見たことのない章を挿入したりします。読者に目新しさ、好奇心をそそるための工夫です。

 

 5:企画を一枚にまとめる

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どんなにいい企画を考えても、その企画が通らなければ意味はありません。端的にわかりやすくメッセージを伝えるために、アイデアを一枚にまとめます。一枚にまとめられないというのは、まだアイデアが散漫になっていたり、芯の部分が弱かったりするときが多いです。

意思決定者は、売れるかどうか、面白いかどうか、という視点で見ていることが多いので、わかりやすいタイトルをつけること、根拠はなるべく数字で示すことを心がけます。

 

 

◆文章は生き物◆

編集者は、本を手に取り、章立て、文章、著者など、さまざまな情報に目を通します。その本が、どれだけアイデアを練り込んでつくられたのかは、読んでみるとすぐにわかるでしょう。本は、その記された文章以上にメッセージを発するものだと思います。細部にその本の制作に携わった人々の思いを感じることも少なくありません。

だからこそ、本の制作の出発点となる企画が、盤石なものであるようにせねばならないと思うのです。何気なく読んでいる本も、どういう企画を元に作られているのか、思いを馳せてみるのも、また違った楽しみ方ができるかもしれませんね。

 

それではお元気で。

 

 【ジャーナリズム人材育成論】

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