TSUJI-LAB.net

人材育成の観点から「経営」「教育」「メディア」について考えます。

第83回アカデミー・オブ・マネジメントに参加してきました

“我々の仕事は、処方する(pescribe)ことではなく、説明(describe)することである。我々は同僚や実務家に心を開き、新しい洞察を見出すこと。それが世界を変えるのです。”

 

ヘンリー・ミンツバーグは、世界各国の研究者たちの前で熱弁を振るった。これまでの長い研究生活に裏打ちされた含蓄のある語りをユーモアを混ぜながら、約25分間。83歳という高齢でありながら、非常に聡明でキレのある講演だった。

 

満員になったホテルの一室の脇で立ち見をしていた私は、全力で耳を傾けた。半分も理解できただろうか。ポパーピアジェ、シュルツの主張を引き合いに出しながら、厳密性と関連性、観察することの重要性について話していたことはなんとなくわかった。

 

“私たちは観察することは得意ではない。MITで修士のコースにいた時、ビジネスを実践していた教員に授業で問いかけられた。1階の入口のフロアは何色だったか。柱はいくつかあったか。クラスで誰も答えられなかった。概念的なものであれ、物理的なものであれ、観察によって明らかになることはたくさんあるのです。”

 

ミンツバーグは純粋な理論主義を仮想敵とし、マネジャーの参与観察などを実践してきた世界的に有名な経営学者である。5フォースで有名なマイケル・ポーターの論に真っ向から批判を展開している。誤解を恐れずに言うならば私からすると「現場を大事にする研究者」だと言える。

 

数分前まで「本の中の人」が、目の前で生の声で語っていることに感動すら覚えた。論を展開するだけでなく、しっかりと現場を観察し、その現象を説明することが研究なんだ。拙い英語スキルで必死に聴いて、その想いだけは伝わってきた。

 

師の中原淳先生もかつてミンツバーグに会ってサインをもらわれたそうですが、私もちゃっかりもらった。

ーーー

アメリカ・ボストンで開催された第83回アカデミー・オブ・マネジメントに初めて参加してきた。東大院時代の同期の斉藤さんが5月頃「AOM行こうよ」と声をかけてくれた。海外に行くチャンスがあるときは、出来るだけ行く。私はこれが鉄則だと思っている。何の準備もできていない。冷やかしでもいいから、何かつかみに行けたらなと思って参加を決意した。

 

一番持って帰って来られた収穫は、案の定「悔しさ」だった。今の自分では全く世界の舞台に上がれない。国籍の異なる人々が当たり前のように英語を使いこなし、高度な議論を重ねている。めちゃくちゃポジティブな空気の中でお互いの知識を共有し合っている。スキルも知識も足りてない私はまともに輪の中にすら入れなかった(斉藤さんは世界各地の大学教授たちにアポ取りまくってガンガンに攻めてたなぁ)。

 

1日5、6セッションを聞いて回ったが、ロビーでプレゼンの練習をしている若い研究者たちを何度も見かけた。ドクターコースの中国の学生が汗をかきながら発表をしている。エアコンがガンガンに効いているホテルの部屋なのに。「みんな必死に挑戦しているなぁ」。

 

約6000セッションくらいのテーマがあったが、どの分野が研究として人気なのか、何がマイナーなのかが会場のオーディエンスの数でなんとなくわかった。そして、ミンツバーグはもちろん、コフラン、カミングス、アボリオ…。文献で何度も見かける研究者が当たり前のようにいる。この環境でしのぎを削ったら、そら強くなるだろうな。

変革型リーダーシップの文献などでよく見かけるアボリオ先生

 

こうした自分の目と耳で感じたことは、今回足を運んだことの価値だと思っている。

 

昨年、博士号を取らせてもらったが、これからまだまだ気が遠くなるほど果てしない研究の地平が続いている。何にも達成していない。ずっと先がある。

 

つまり、希望しかない。

 

これから何にどう舵を切っていくのか、走りながらじっくり考えたい。

ーーー

 

余談だが、ボストンの物価の高さには衝撃を受けた。ボストン・ローガン空港に降り立って売店で軽くサンドウィッチを買おうと思ったら、11ドル(1500円)。円安もあってか、私の肌感覚としては全てのものが日本の2.5〜3倍ほどの値段がする印象だった。ブルーボトルコーヒーカフェラテ1杯6.69ドル(970円)。ビッグマック1個6.39$(925円)。場合によってはここからチップが+20%。レストラン行ったら、軽く一人1万円はする。バスのオペレーターの求人は時給4300円だった。

 

もう日本はGDP世界3位と言えども、先進国ではないのかもしれない。日本の給料では暮らせない街だった。

レッドソックス吉田選手