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人材育成の観点から「経営」「教育」「メディア」について考えます。

これまでの10年、これからの10年

この4月で助教から准教授になりました。

 

一見、肩書きが微妙に変わっただけなのですが、私にとってはとてつもなく大きな変化です。東京で暮らし始めて10年余り。ここまで駆け上がってきて、ようやく腰を据えてやりたいことに挑戦できるフェーズに来たと実感します。これまで支えてくださった方々のおかげです。本当に感謝しています。

 

 

◆10年という月日◆

私の経験上、10年あったら人は全てを変えられると思っています。

 

10年前の2014年は新聞記者を辞めて、大阪から東京に出てきてゼロスタートで仕事をする傍ら、研究の世界に挑戦しようと大学院入学のために受験勉強を始めた頃です。学術の世界なんて全く知らなかった。さらに10年前の2004年は何者でもない浪人生でした。高校卒業時は偏差値30ぐらいで、それまでサッカー一筋で努力してきた頑張りをそのまま全て受験勉強に振り向けていました。

約10年前、車を借りて荷物パンパンに詰め込んで、大阪から東京に引っ越した。

 

今振り返ってみると、全てはつながっていて、無駄なものはほとんどないことにも気付かされます。大事なことはその都度、一生懸命考えて、悩んで、最善だと思う道を選んでコツコツと行動に移すことかなと思います。その積み重ねが今の自分を作っている気がします。

 

熟達の理論に「10年ルール」というものがあります。一人前の熟達者になるためには10年が一つの目安と言われます。当然、職務内容によって差があると思いますが。

 

新聞社を退職する際、編集局長室に呼ばれた私は、上司に後学のために教えてくれと言われ、「何年で記者として一人前になれると思うか?」と聞かれたことを思い出します。若い記者の離職率が上がり、いわゆる「雑巾がけ」と言われる修行のような期間はどれくらいだったら適切かを知りたいようでした。当時、どう答えたかははっきり覚えていませんが、ニュースの価値判断の分別がつけられるようになるのに約1年半、そこから不祥事事案を含めた高度な取材スキルに3年、記事執筆のスキルは奥が深く、さらに何年かかかるといった印象でした。

新聞記者時代は昼夜問わず、現場を走り回っていた。

 

いずれにしても10年あれば、大して才能のない自分でもその道である程度、身を立てられる。10年とはそんな月日なのだと思います。

 

 

◆これからの10年◆

4月を迎え、新たなスタートということで、これまでのキャリアを踏まえて、これからの10年どういう道を歩んでいきたいのか。節目である今、改めて考えたいと思います。

 

これからの10年、テーマとして掲げたいのは「丁寧に生きる」ということです。

 

20代、30代、猛烈に働いてきました。新聞記者の頃は、時間と労力を仕事にほぼ全振りして働いていて、その分、成長速度もめちゃくちゃ早かったと実感しています。友人からは「いっつも力んでいる」と言われたこともありました。入社して5年少しで退職した時には「5年しか持たない働き方をしていたのかな」と思ったこともありました。

大災害が起こり、1ヶ月半1〜2時間睡眠で取材していた。登山して孤立集落にたどり着いた時の写真。この直後、道端で寝た。

 

転職した後は、仕事と研究、非営利活動とマルチタスクで活動していて自分の幅を広げていました。仕事が終わったらカフェで23時くらいまで勉強をしていたこともありました。同僚には、私のそんな姿を見て、「なんでそんなに頑張るの?自分のこと許してあげたら?」と言われたこともありました。

東大大学院時代。脳みそちぎれた。笑

 

そういう言葉をかけてくれる人は、私のことを思いやる優しさから言ってくれていましたが、周囲からはそう見えるんだと、色々考えさせられました。必ずしも努力すること、頑張ることが全ての人にとって素晴らしいことではないということも学びました。確かに犠牲にしてきたものもあったなと思います。

 

ただ、私にとってはいずれの働き方も、今思えば楽しかった。なぜか。

 

そこに希望があったからです。

 

できないことができるようになる自分、知らなかったことがわかる自分。

 

まだ見ぬ景色を目指して、希望に向かって走っている瞬間が、最も幸せなのではないかと思います。あくまでも私にとっては、ですが。

 

ですから、努力は手段であって、目的ではない。希望に向かって走り出す時に努力が必要なら、その苦労は厭わない。そんな感覚です。

博士取った。

 

前置きが長くなりましたが、これからの10年は、これまでとはやや異なる生き方を模索したいと思います。

 

猪突猛進的な働き方から少し脱却し、やりたいことを我慢しない、しなやかな生き方を目指します。

 

知識と経験が豊かになるにつれて、できることが増えていきます。今は何をやるのかよりも、何をやめるのかを考える方が苦労します。ネットワークも広がってチャンスはどんどん増え、手当たり次第挑戦していると、気がつけば本当にやりたいと思っていたことができなくなっているといった状態に陥りがちです。

 

責任と権限も増える中で、残したい成果、それを達成するための働き方、それを維持するための過ごし方をバランスよく配置して、器用に回していきたいと思っています。

遊びも大事。

 

◆残したい成果◆

今後10年、残したい成果は1年半前に計画として立てているものがありますが、簡単に示すと以下のようなものがあります。

 

・ニュース組織研究

まだ現場に知見をしっかり返せていないと感じています。レガシーメディアは「経営」の知見が足りていない、新興メディアは「ジャーナリズム」の知見が足りていない印象がありますが、双方ともあまり見られないのは、育成とマネジメントの視点。良いコンテンツ、あるいは良い経営戦略を生み出したければ良い人材を育て、機能的にマネジメントできる組織体制や制度を整備していく必要があります。心身を削って満身創痍で働く記者を何人も見てきましたし、私もその一人でした。そんな働き方でしか本当にいいものは書けないのか。「甘い世界じゃねぇ、命懸けでネタとってこい」風土の中でこれまでの記者たちが生み出した報道には大いにリスペクトしていますが、記者それぞれの幸せと両立できる組織にできないのか。もっと効果的に質の高いニュースを生み出せないのか。この辺りは検証の余地があると思っています。新人記者の頃に仕事のいろはを教わったデスク2人が亡くなりました。50代という若さでした。あまりにも悔しい出来事でした。彼らの教えを胸に留めながら、自分なりに現場に返せることはないか、模索していきたいです。

 

・創造的成果の組織論

まだ適切な言葉が浮かばないのですが、イノベーション理論やイントレプレナーシップ研究の中に資源動員、ブリコラージュ、ブートレギング、チャンピオニング、闇研、逸脱と言われる分野や概念があります。リーダーシップ論ではポリティカルリーダーシップという概念があります。組織論の中にもパワーという概念があります。これまで研究を続ける中でこうした概念がずっと気になっています。これらの概念を整理して、新しい形で社会にお届けできればと考えています。組織に属している以上、誰しもが組織の力学に飲み込まれていきます。どれだけいいアイデアや成果物を生み出しても、組織の力学を見極め、うまく立ち振る舞えないと潰されてしまうリアルが存在します。ルーティンワークから外れて、潜在的可能性のある創造的成果物を世に出すのは一筋縄ではいかない。それでも、組織の壁を突破して世の中に革新的なモノやサービス、情報を提供したいと思う人々に返せるような知見を生み出したいと思っています。

 

・若い人を応援する知見の提供

特にこれまでの4年間は大学生と向き合ってきた時間が長かったです。学生個々人によってかなりムラはありますが、その中で感じたことは、他者と協働し、確実に仕事を遂行していくための「基本動作」が学べていないということでした。メッセージの送り方から、タスク・スケジュール管理、コミュニケーションの取り方、議論の仕方、成果を残すための思考そのものまで、ありとあらゆるスキルを徹底して伝えてきました。これまで教わったことがないのでできなくて当たり前なのですが、もし大学でも教わらないまま社会に出てしまったら、企業で相当苦労してしまうだろうなと思いました。私と関われる学生は一握りなので、大学生、企業の新人向けに広く基本動作をまとめた知見を提供したいと考えています。

 

・事業承継の共同研究

中小企業の抱える問題は深刻です。後継者への承継がスムーズにいかない実態があります。日本の企業は99.7%が中小企業と言われています。日本の経済力を支える企業の喫緊の課題で、待ったなしの状態となっています。こちらはお誘いいただいた大学院同期の斉藤さんと師匠の中原先生との共同研究です。研究結果をもとに、事業承継のあり方についての知見をお届けできるように頑張りたいです。

 

他にもいくつかありますが、ひとまずは形にできそうなものをコツコツと進めていければと思います。

 

ここ4年は学内のアクティブラーニングの体制構築にかなりの時間を割いてきました。各科目のコンテンツを作り、学生を育成できるコミュニティを整備し、協力してくださる先生方にも働きかけてきました。ある種の組織開発の実践だったと思います。

 

國學院大學経済学部FAたち。この4年、自律した学習コミュニティとしての文化の構築と継承、成果を最大化するためのチームビルディング、コミュニケーションスキル、プロジェクトマネジメントを磨くための仕組みづくりに励んできた。

 

これからは原点に立ち返り、もう少し「書く」ということもバランスよく取り入れていけたらと思います。記者だった私にとっては書いて伝えることが原点です。筆が速い方ではありませんが、それでもあまりにも書いていない期間が長いと不健全な気持ちになってきます。どんなものであれ、形に残すことの重要性を強く感じているので、頑張りたいです。

 

◆生活を変化させる◆

こうした成果物を残していくためには、生活そのものも変えていかなければならないと思います。これからは現在と同じ馬力を維持していくためには、変わっていかないといけないと思っています。元々幼い頃から運動をしてきて、部活もバリバリやっていたタイプなので体力に過信している部分がありましたが、次の10年を見据えてゼロから体づくりをしていけたらと思っています。

 

ひとまず実践してみたいと思う働き方の改善策としては、

・すぐに返せないメッセージの即レスをやめる(もちろんモノによる。しかし染み付いた即レス習慣を変えるのは、本当に難しい)

・時間に制限のない会議をやめる

・行きたくない義務的な飲み会に行かない

・なんとなくの晩酌をやめる

・時短につながるサービスや製品は積極的に取り入れる

・1日の中で仕事を終える時間を明確に決める(ダラダラ仕事をすることで全てが後ろ倒しになる)

 

こうした改善策から時間を生み出して次のことを取り入れたい

・ランニング、筋トレなどのトレーニングの頻度を上げる(心理的抵抗感はゼロなので時間を捻出できればできるはず!)

・コンビニでご飯を買わず、ちょっといいもの買うなり作るなりして食べる

・リフレッシュ時間を週1回は取って体調を崩さないようにする(崩すと長い)

・軽めの登山を定期的に行う(自律神経が整う)

 

 

10年、様々な人に出会い、たくさんの経験や言葉をもらいました。修行の日々が長かったですが、いつも伴走してくれる人がいました。

准教授内定を祝ってもらった。師匠の中原先生と舘野先輩、田中先輩。

 

次の10年もまた、どんな人生が待っているのか。どんどんおもろいことを仕掛けていきたい。与えられた使命と希望を持って、日々研鑽に励みたいと思います。